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現代のトランスミッションは「常時噛み合い式」が主流である。
これは、各段の歯車は常に噛み合っているが、歯車が取り付けられた軸とは固定されておらず必要な歯車だけが軸に結合する。
それ以外のギアは、軸とは独立して自由に回転する。
選択摺動式のようにギアそのものの噛み合わせ変更を行う必要がないため、後述のシンクロメッシュ機構と組み合わせることによって、変速に要する技量は大幅に減った。

歯車と軸の結合は、軸に付いたクラッチスリーブ(以降、スリーブ)によって行なわれる。
スリーブは軸方向にスライドすることができ、その内面に付いた歯(ドグ)によって、外周に歯を持つ2つのリング(一方がギア側、もう一方は軸側)を結合する。

シフトレバーは、常に1つのギア段だけが結合するようスリーブを操作している。
すなわち変速する際、スリーブはまず1つのギア段から離れ、それから別のギア段に結合する。
従って、運転者は選択摺動式のようにギヤ自体を動かしているのではなく、スリーブを動かしていることになる。
通常のMTでは、スリーブがいずれのギア段にも結合していない状態(ニュートラル)も選べる。

スリーブは軸方向に対して表裏があり、1つのスリーブ2つのギア段の結合を受け持つ。
一方向にスライドすると片面によってある歯車が、逆方向にスライドするとその裏面によって別の歯車が軸と結合する。

シンクロメッシュ機構とは、スリーブが挿入される際に、ギアと軸の回転速度を同調させる機構である。
スリーブはギアに取り付けられた円錐形の摩擦機構(シンクロナイザーと呼び、コーンとリングからなる)に力を伝え、シンクロナイザーが回転を同調させ終えるまで、リングによってスリーブが固定位置手前でブロックされる構造となっている。
現代のトランスミッションではこれらシンクロメッシュ機構の動きは極めてスムーズなので、構造に詳しくない運転者はその存在を知覚することがほとんどない。

現代的なコーン型のシンクロメッシュ機構はポルシェにより改良が進められ、1952年にポルシェ・356に搭載された。
その後、何年にも渡って、コーン型シンクロメッシュ機構は「ポルシェシンクロ」と呼ばれることとなった。
1950年代前半、大部分の自動車ではシンクロメッシュ機構1つと、簡単なリンケージで済む「2速・3速のみシンクロ機構付のトランスミッション」を搭載していた。
当時の運転マニュアルでは、2速から1速へ変速する際はいったん完全に停止し、それから1速に変速して再発進するのが最良と記されていた。
しかし、機構の絶え間ない改良により1960年代には1速、そしてその後4速、5速、6速と前進全段にシンクロメッシュ機構を持つ「フルシンクロメッシュ型」へ進化した。
現在の技術では、シンクロメッシュ機構を使わずに常時噛み合い式トランスミッションを構築することができるが、変速時の振動や騒音(いわゆる変速ショック)を抑制するためにもシンクロメッシュ機構が用いられ続けている。
なお前進全段にシンクロメッシュ機構を搭載することが一般的となったため、これを区別する「フルシンクロメッシュ型」という呼称は使われなくなりつつある。

一方、後退ギアは通常シンクロメッシュ機構を持たない。
前進から後退への切り替えは車両停止を経ることを前提としていることに加え、通常の自動車のトランスミッションでは後退ギアは1段だけであり、後退中に変速しないからである。

シンクロメッシュ機構の磨耗が進んで完全に働かず、変速時に異音が生じることを「ギア鳴り」という向きもあるが、正確な表現ではない。
選択摺動式が大勢を占めていたころの名残り、もしくは構造の誤認である。
磨耗して生じる異音は、スリーブに設けられた歯(ドグ)とギアに設けられた歯によって生じるドグクラッチの鳴りである。
また、前進時に後退ギアへ変速しようとして生じるギア鳴りは、前述のとおり後退ギアがシンクロメッシュ機構を備えていないことに起因する。